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「Dear. San Francisco」

どこまでのことを話していいのだろう。

どこまでのことを話すべきだろう。

その本にはこう書かれていた。


時代遅れの呼び鈴が置いてある、

古くカビ臭い小さなホテルのラウンジにある本棚にそれはあった。

...「これは、僕の旅路を知る上でも知っておかなければならないストーリー」

  • Dear. San Francisco-

少年サンチャゴの人生には、愛した一輪の杏子の花が咲いていた。

もともと旅に出る前のサンチャゴは人生に迷いを感じていた。

これは「誰の物語」なのだろう。そう感じて見上げる都会の夜空は、ひとつの星も見えなかった。

もともと、サンチャゴの家族は「愛」とは無縁で、彼も「愛」について、ひとつの経験も、知識さえもなかった。


だだっ広く、果てしない、ありきたりな道をサンチャゴは歩き続けた。自分がどんな人間になりたいのかも、どんな理想を掲げるのかも、分からず、ただただ周囲の羊たちと一緒に、同じ道を歩き続けた。彼には「失うもの」がないから何も怖くなかった。


すると、そんな荒野に一輪の杏子の花が咲いているのに気付いた。

サンチャゴはその花に恋をしたが、自分から今まで「恋」という穴に落ちたことがなかったので、戸惑いを感じた。

杏子の花はまるで、サンチャゴに気付いていない様子で 風にくすぐられていた。

今まで全てにおいて無気力な自分を悔い改め、
自分自信を磨き始めた。幸いサンチャゴは「経験」はないものの、自分を変える力を持っていた。

サンチャゴとその花とが、恋に落ちるのには時間が掛かった。
なんせ、サンチャゴの言葉には「力」がなく、真実を伝えても、誰も信じてくれないからだ。

しかし彼は表現者であった。
口に出しても、誰も信じてくれないならと、
紙に自分の気持ちを書き綴った。

その書き綴った何十枚ものラブレターを通して、彼は

「自分が伝えたいこと」と、

「彼女が聞きたいこと」の間を考えるようになった。

そして、ついに恋は実った。

しかしサンチャゴは羊飼い。

やらねばならぬことがあり、恋が実ったものの、次に花を見たのは、約半世紀という月日が流れた後。


サンチャゴは努力を惜しまない性格で、遠い国から、時差や距離を超えて手紙を宛てた。

その時間に果てしなさと感じたが、なんとか時間という大きな壁を、サンチャゴと花は乗り越えることが出来た。

一度、壁を乗り越えた2人の絆は強く、
それから2人は手を取り合って、支え合って、2人で同じ道を歩き続けた。

その道の最中で、サンチャゴは杏子の花にたくさんのことを教えてもらった。

ボロボロだった服も、彼女のおかげでピカピカに。
花をより美しく撮るために、今まで触れたこともない遠い未来のレンズの付いた機会の使い方を学んだり、
彼女を喜ばせるためであれば、なんだって惜しみなく学び、

彼女のためでもあり、それはサンチャゴのためでもあった。

もちろん 花を喜ばせるためにサンチャゴはたくさんの手紙を送り、少しずつ少しずつ、「言葉」を取り戻していった。

サンチャゴの父は乱暴な男で、彼を見て育ったサンチャゴは「僕はひとりで歩いて行こう」と決めていたが、その考えは世界のチリになって、この世から消えていった。

今は花がそばに居てくれるからだ。
彼女ほど、サンチャゴの心を落ち着かせるものは、今までかつてなかった。

サンチャゴに「家」と呼ばれる「心の安らぎ」がなかったからだ。
彼女がサンチャゴの「心の安らぎ」であり、強がるサンチャゴの唯一の自分の場所であった。

「彼女を心から守りたい。」今まで、自分のためだけに生きてきたサンチャゴに”失っては困る存在”が出来た。

「誰かのために自己犠牲が出来る」
サンチャゴにとって、こんなに精神的に大人になれる方法はなかった。

そして、ひとりで生きていたときは、
道しるべとなるものがなかったサンチャゴであったが、

ようやく「地図」を見つけた。

サンチャゴの父曰く。
「男には地図が必要だ。
荒野を走り抜く、心の地図がな。」と。

サンチャゴの地図には「なりたい姿」が書いてあった。

それが、杏子の花を育てあげたミツバチの両親であった。

彼らには この惑星では珍しく、神様がいた。

サンチャゴはよくミツバチの両親に挨拶をし、敬い、尊敬していた。ミツバチのお父さん、お母さんとも仲が良く、杏子の花のお陰でピカピカになったサンチャゴは、良くしてもらっていた。

ミツバチのお父さんの紳士的で、アクティブで、家族思いな姿に、ずっと独り身であったサンチャゴは憧れを抱いた。自分も家族愛に溢れた男になりたい。そう思ってやまなかった。

その「家族」には、「愛」があり、
サンチャゴは初めて「家族」というものを理解した。「これが、家族で、心の、暖かみか...」と。

それから、サンチャゴは自分の「家族」を、本当の意味での「家族」と呼べなくなってしまった。

サンチャゴは、より杏子の花が好きになり、いつだってお水をあげて可愛がった。だってボロボロだった自分をこんなにピカピカにしてくれたんだもの。

そして、サンチャゴは彼女のことをより知るうちに、”彼女の行きたい方向”と”自分がいる状況”が大きく違うことに気付いた。

杏子の花は 将来、彼女が生まれた「SF」という惑星に戻りたいということを知った。そして我が子を宇宙規模で育てたい。という夢も。

しかしサンチャゴは、羊飼い。
今まで自分の持ち場を離れたことがなく、このまま周囲の羊たちと一緒に、この道を歩いていくものだとばっかり思っていた。

サンチャゴは戸惑った。しかし、恐れはなかった。サンチャゴも他の惑星にいつか行ってみたいと、幼い頃から思っていたからだ。

強いていうのなら、「恐れ」は「未来」にあった。なんせ、この先の未来が二手を別れているように感じたからだ。

そして、もうひとつ。
サンチャゴは杏子の花に、あまり時間がないことが分かった。

彼女は茎の部分が弱く、早いうちに新しい命を咲かせないと、二度と出来ないという。

それを知ったサンチャゴは考えた。
「彼女の夢」を叶えてあげたい。

「時間がない」

...今しかない。
サンチャゴは羊飼いとして、次の道しるべもあったが、羊を全て逃がすことにし、
自分自信を「羊飼い」と名乗ることもやめた。

サンチャゴは旅立つことを決めたのだ。

そして、それを杏子の花に告げた。
彼女は驚いていたが、そんなサンチャゴの姿を懸命に応援してくれた。

さて 旅をするには、”ルビーの石”が必要だ。羊飼いのサンチャゴにそんな資金はあるのだろうか。

実はサンチャゴはこっそり貯めていたのだ。
杏子の花との未来を真剣に考えていたので、旅の資金の半分は既に持っていた。

サンチャゴは”ルビーを使うこと”を少しためらったが、これを使わず、旅が出来ず終いであれば、どちらにせよこのルビーは使えないと思い思い切って結構した。

サンチャゴの「愛」は本物であった。

...ここでページが破れてるな。
気付けば、1時間以上このボロボロの本にかじりついていた。このロビーがカビ臭いのは、この茶色の絨毯が原因だな。おそらくこの絨毯はもともと赤かったのだろう。今じゃシミだらけで、新品だったころの面影もない。

でも、どこか「自然」で、あの頃みたいにピカピカじゃないから、親しみやすくて、僕は好きな絨毯だ。

安いコーヒーをすすりながら、破れたページを飛ばし、次のページにめくると物語は大きく変わっていた。


...「私、いま幸せなの。」

その言葉を最後に、杏子の花の声は聞こえなくなってしまった。

サンチャゴの心はずぶ濡れになった。ボロボロになった。ボロボロどころでなく、立ち上がれなくなった。言葉に出来ない感情が渦を巻き、彼は壊れかけた。

それは、彼が旅立つ前夜であった。

しかし、彼には塞ぎ混んでる暇はない。
やっとの思いで掴んだチケットを破くわけにはいかないからだ。そして、数少ない友人がサンチャゴの旅立ちを祝ってくれたので、サンチャゴはどうにか一歩踏み出すことに成長した。

運が不運か、同じ日、同じ場所から、
サンチャゴは西へ。杏子の花は東の果てにある生まれ故郷「SF」へ。


サンチャゴの旅路を辿ると、最後にたどり着く惑星が「SF」であった。

彼は その惑星に到着し、花との再会を夢見てやまなかった。つまり、彼は諦めなかったのだ。彼女と歩いていく”幸せ”な未来を。

今までだって、自分たちがどんな状況だって、彼女のことを想っていたサンチャゴにとってそれは当たり前の決断であった。

とにかく、サンチャゴにとって今も昔も、
「旅だった前日」が1番、
この人生で1番辛く、キツく、孤独であった。

まるで、暗闇の宇宙に取り残されてしまったかのような孤独感が彼を襲った。

羊たちは言う。
世界には他の花がいくらでもあると。
しかし彼らは分かっていない。
あの杏子の花は、世界中探したって一輪だけなんだってことを。

いくら手紙を書いても返事が来ないので、
一度 サンチャゴは悩むことも、考えることもやめた。

そして未来に託すことにした。

しかし、「愛」という火は決して消えることはなかった。だって、人生で初めての「心の安らぎ」だったからだ。

サンチャゴの旅は続いた。
その間、彼女の体の健康、心の健康を祈った。

その惑星の神様を見つけては、祈った。

会えもしない。声も聞けない。気持ちも伝えられなければ、何をしているかも分からない。
何をしようとも、どうにもならない状況に、彼は「祈る」しかなった。

その「祈る」という行為が、次のサンチャゴの心の安らぎになった。

強盗、
テロ、
事故、
人の「死」。

本当の意味での「安全」なんてない、この世で、孤独を旅する彼にとって、

その国の神様に、
「自分の身」と「彼女の身」、「自分たちの未来の道」を祈ることは心の安らぎであった。それからだ。神を信じていなかった彼が、神様を信じるようになったのは。

1つ目の惑星は、彼にとって衝撃的な国であった。
貧困が蔓延り、信仰心の強いこの国の教会は、みんなが神を信じ、膝まづき、涙を流す。

その光景にサンチャゴは、「神様の存在」を信じざるを得なかった。

今まで羊飼いだった彼は、父に
「運命は自分で切り開くもの」だと教えられてきたが、努力はもちろん大切だが、
「最終的なサイコロを振るのは神」だということを理解した。

彼は祈り続けた。
時に、杏子の花が元気に咲いていた噂を耳にすると、嬉しくて眠れない夜もあった。それは確か「ペナン」という惑星での話だ。

危ない土地にも訪れた。
そこは、大きな壁に囲まれた”まだ惑星”と呼ばれぬ土地であった。

しかし、彼は彼女を思い続けた。
そして「生きてること」は当たり前ではないと思い、彼女に手紙を宛てた。

過去の自分のだらしなさに対する謝罪、
彼女が僕をキラキラにしてくれたことの感謝、
生きてるうちに伝えなきゃいけないことは、全て伝えたが、一向に連絡は帰って来なかった。

「いま何してるんだろうな」
なんて夕日を見ながら呟く日が続いた。

特に砂漠で見た夕日を心から彼女に見せてあげたかった。それだけでもサンチャゴは幸せだった。この世に、自分の幸せを分けてあげたいと思える人間がいることに。

旅立つ前、サンチャゴと杏子の花が最後にあったのは、夕日が美しい浜辺であった。

サンチャゴはそこで「永遠の愛」を誓おうと思ったが、勇気が出ず、言葉にすることが出来なかった。

この日の後悔は、サンチャゴを苦しめた。

「時として、チャンスは一度しかこない。

男なら、このチャンスを掴むことだ。」そこから得た教訓をサンチャゴは忘れない。

旅の果てにようやく、「SF」がある銀河系へたどり着くと、サンチャゴは勇気を出して、杏子の花に手紙を送った。

これまでの旅路、この場所を目指して旅を続けてきたと言っても過言ではない。
「SFにたどり着くこと」それがサンチャゴの心の支えであり、原動力であり、希望でもあった。

杏子の花から返事が来た。



...
「いいえ。会えません。」





サンチャゴには遅すぎたのだ。

サンチャゴのポジションには既にその惑星の人間がいた。


”想いというものは、
想っているだけでは伝わらない。”

サンチャゴは「言葉」がどれだけ大切か感じた。

そして、彼は再び道を見失った。
崩れた。心臓を取り出して、箱に詰め、どこかに隠したくなるほど苦しかった。

今まで信じ続けてきた「希望」がなくなり、自分がどうしていいか分からなくなった。

自分がどこに向かっていいか分からない。

旅を続けるにも、どこに進めば良いのだろう。
サンチャゴが唯一持っていた「心のコンパス」が完全に壊れた。

彼女のためにしていたことが、今度は自分を苦しめ始めた。

自業自得はこのことだと、膝をついた。

彼は「向かう方向」も「帰る場所」も見失ってしまった。

なにも分からなくて、再びロケットから切り離された宇宙飛行士みたいに、宙を浮いている感覚に陥った。

旅が終われば尚更、現実と非現実の狭間をさまよってしまう気がしてならなかった。

「自分がどこに帰ればいいか分からない」

旅に出て、これほど不安なことはない。

旅人には帰るべき場所が必要だ。帰るべき場所がないと、それは「旅」ではなくなってしまうからだ。

サンチャゴは迷った果てに、最終目的地にしていた「SF」という惑星に向かうことを決めた。

これは、自分と向き合うためにも、杏子の花と向き合うためにも。


...
「SF」には 大きな赤い橋があり、海があった。

その浜辺にたどり着き、裸足で歩いた。

歩いていると、彼は最後の海の日のことを思い出し、大きな声で泣いた。

それは、今までのようにポロポロと溢れる涙ではなく、心の底から声が枯れるまで、子供のように泣いた。

「やはり神様などおらず、
運命は自分で切り開くものだ」とも思った。


振り返ると、浜辺に付いた自分の足跡が、波にかき消された。

振り返ると、自分がどこにいるのか分からなくなった。

幸い、サンチャゴは何度も崖に落とされたことがあり、その度に命かながら這い上がってきた。そんな経験を生かして、前を見た。

すると、浜辺は誰の足跡もなく、まるで白紙のようだった。

「過去は振り返っても、何も変わらない。

でも、未来は変えられる。未来は白紙なんだ。未来は自由に歩ける、足跡を残せる。」

そう思うのには、時間が必要だったが、
サンチャゴはそう思うよう心がけた。

そして、サンチャゴは涙を拭き、
自分が今ここにいること。それは、物理的にも、人生的にも、今の自分を構成していること。

それは彼女のお陰であった。

と、理解した。
最後に彼はSFの海に向かってひとことこう言った。

「ありがとう」と。



...気付けばあっという間に時計は20時を回っていた。さっきまで夕日が眩しかったのに、もうこんな時間か。

どこか遣る瀬無い空気が僕を包む。
ふぅとため息を尽き伸びをし、3階にある自分の泊まっている部屋を目指した。

このボロ宿にはエレベーターがないので、3階までも一苦労。この茶色く汚れた絨毯と狭い廊下を歩き部屋へ向かう。

今の僕が、主人公サンチャゴに言えること。

それは自分の「愛」不足が招いた結果以外何物でもない。

思うに、「愛」とは”乗り越える力”。
”乗り越えようとする力”。

1人の人間だって、相当なエネルギーを持ってるんだ。それを2人でお互いのために頑張って”乗り越えようとする力”つまりは「愛」が、

キミとその最愛の花とやらの間にはなかっただけのこと。

「愛」さえあれば、たとえ生活に困っても、
好みの人間じゃなくても、遠距離でも、言葉が通じなくても、「乗り越えよう」とする力が働くはずだ。

間違いなく、若きキミの”経験不足”。
もっと「愛」を注いでやらないから悪い。

女性は当然のように「安定」を好む。「損得」で動くのも女性特有の動きだ。

一方、男性が「安定」を好むと腐る。だから我々男性は飛び込み続けなければいけない。日々、男を磨かねばならない。

ではどういう女性が僕にとっての理想か。
「飛び込み続ける男性」を、不安もあるだろうが陰ながらしっかり支えてあげれる女性。

もちろん、男性側も行動しつつ、なるべく女性に不安を与えちゃいけない。だから、大きな声で「絶対に幸せにするから!!」って毎日 伝えて不安を拭ってやらなきゃいけない。

サンチャゴよ。当たり前だ。
言わないと、伝わらない。お前は彼女にテレパシーでも通じると思ったのか?

なんだって 言わないと、伝わらないんだ。

だからちゃんと”気持ち”ってのは伝えるべき。
そして、男っていつも、失ってから気付くんだよね。失ってからじゃもう手遅れ。だから失う前にちゃんと、気持ちを伝えることだな。これはこの本を通して学んだ教訓だ。

でもさ、どんな結末であれ、
「片想い」で彼女を想い続ける。なんだかロマンチックで俺は好きかもな。

ただ、これは結果論で、
恋愛って「1」か「0」のところがあるから、
フられてるサンチャゴの場合、
「ストーカー」って言われるかもしれないけど、成功してれば「宇宙1のロマンチスト」だな。

男って、本当にバカで、アホで、
不器用で、でもさ。いい奴だよな。

男の方がロマンチストだよ。
「夢」を追いかけたり、「憧れ」を抱いたり。

アホじゃなきゃ、ロマンチストじゃなきゃ、
結局 彼女を喜ばすことなんて出来ないんだから。

でも、やっぱり恋愛を閉めるなら、
「ありがとう」で終わらせられる恋愛ほど良いものはないな。うん。

お前は、きっともっと言いたいことがあるだろうに、感謝で終われるいい奴だ。

いい奴は、いっつも損すっけど、
それでいいと思うよ。自分の信じた道を進みなさい。あと、男はたくさん泣いて、追い詰められて、壁を乗り越えて、大きくなっていくもんだからさ。

この旅を通して気付いたこと。

”それは、「愛」とは、この世において最も強く、そして儚く、変えが効かず、かけがえのないものということ。”

そうメモ書きを残し、僕はドアを閉じた。

...物語は「南米」へ。